地域に根付いたコーヒースタンド。本当に大切なのはSNSだけではない。
中野新橋の住宅街に、明かりの差し込むコーヒースタンド「TRICHROMATIC COFFEE(トリクロマティックコーヒー)」を運営している石原氏。地域に根付き、今では多くの方々が足を運んでいる。
前半では、脱サラ後に自身のコーヒーショップを立ち上げ、夢への一歩を歩み始めたこれまでの経緯に迫った。
TP Interview 007:TRICHROMATIC COFFEE 石原剛氏(前編)~カフェ未経験・人脈ゼロから始めたスペシャリティコーヒー店経営、成功の秘密を探る~
1.SNSを活用した集客について
インタビュアー:集客でSNSの活用は、どうされていますか。
石原氏:
インスタはすごく意識していますね。土日にわざわざ来てくれる人は、インスタ経由が多いんですよ。インスタ映えは意識せざるを得ないです。難しいのは、どんなに撮ってもコーヒーはコーヒーなので器を個性的にするなど工夫しています。
インタビュアー:だから器1つとっても特徴的なんですね。
それはどこのコーヒーショップもされていることだと思うんですけど。でもSNSは難しいです。意外に時間が取られるし。アルバイトに来てくれてる女の子に撮ってもらい、あげてもらうこともあります。それはこれからの課題ですね。
ただ、まずはこの街の、この近くの人に知ってもらってなんぼのお店です。それが少しずつ広まってお客さんが増えてきて。じゃあ次、中野新橋、新宿、それから出た時にどうやってアピールするかって言ったら、SNSしかない。
では、この中野新橋でインスタが有効かどうかと言うと、あんまり有効じゃないと思っています。有効なのはもう口コミ。
うちはワンちゃんOKなので、愛犬家の人たちが「子犬OKと聞いたので」と口コミで来てくれることが多いです。もちろんインスタも大事ですが、まだ次の段階なのかなって。今やっとこの街で少しずつ知ってくれてる人が増えている段階なので。

インタビュアー:犬OKの良さもやりながら見えてきた。ブランディングの一つですね。
石原氏:
そうですね。犬好きの人たちの口コミは広がっています、あとこの街でサードウェーブやスペシャリティコーヒーを掲げてるコーヒー屋さんはないので。それでこの店に来てくれる人もいるし。うちのお客さんは意外に年齢層が高いので、インスタ見てるかって言われたら、見ていない。
だから臨時でお店を閉める場合、その告知をインスタやFacebook、ホームページ、全部あげるんですけどね。街のおばちゃんおじちゃんが見てる訳ないので。結局張り紙をでっかく書いて貼っておく。そういう世界なんですよ。この街の特性というか。かっこつけてSNSだけで情報発信とか、そこじゃないと思うんです。
インタビュアー: そういうのが大事なんですね。
石原氏:
きっとこの街ではそうなんだと思います。
インタビュアー:開業する前に思っていた中野新橋のイメージと、やってみてのギャップはありましたか。
石原氏:
ここまでアットホームなのは意外でしたね。もちろんコミュニティーができるような温かいコーヒースタンドになればいいなって思っていたのでとても嬉しいのですが、自分とお客さんじゃなくて、お客さん同士がつながって、そこで仲良くなってまた連れて来てくれたりとかは予測していなかったですね。
自分と話しに来るんじゃなくて、お客さん同士でその人に会いたいから来るみたいな。そこまでのコミュニティーが生まれるなんて、とてもありがたいです。
インタビュアー:すてきな誤算ですね
石原氏:
そうですね。これからも常連さんを大切にしつつ、新しいお客さんもふらりと立ち寄れるようなお店にしていきたいです。
お客さんの中には、あまり会話をしたくない人もいます。そういう人を見分ける勉強もこの1年間でしてきたし、その人の顔を見て、あの人話しかけちゃいけない人だっていうのは、気を遣っています。話しかけなくても来てくれる人は、来てくれます。すごく難しいですけど、そこは気をつけて接していきたいですね。
2.お店を持ちたいならば、何をすればいい?
インタビュアー:今後の展開などがあれば教えてください。
石原氏:
この街は会社がある訳でもないので、平日の昼間は人がそんなに多くないんです。そこの集客は常に課題ですね。
あと、実はこの店をオープンした時から考えていたのですが、お店を増やしたいと思っています。既に物件も探していて銀行とも話をしている段階です。
インタビュアー:早いうちから決めていたんですね。
石原氏:
始めから分かっていたことですが、このお店の規模では天井が見えています。自分はコーヒー屋さんの店長さんになりたいと思って始めた訳ではありません。あくまでもビジネスとして見ているので。できればお店だって早く人に任せたいと思っています。

インタビュアー:やはりまたカフェを?
石原氏:
もう少し大型のコーヒーショップをやりたいですね。ここで本当は展示会やイベントもやりたいところですが、実際狭くてお断りすることもあります。
でも先日は、絵やコーヒーが楽しめる「1日限定ポップアップショップ」的なことがしたいとお話しをいただき、場所だけ提供しました。自分はちょこちょこコーヒー飲みに来ましたけど。あくまでお客さんで。(笑)
インタビュアー:楽しそうなイベントですね!では、新しいお店はどのように探しているのでしょう。
石原氏:
次の物件を見る時に、家賃のレンジを「今のお店の平日売上がこれぐらいになったら、いくら以上まで出せる」と計算しています。細かく考えているんで、そういうのも一つずつクリアしていく。そうすれば次もっと大きな店も持てるし、投資できるんで。次クリアすることとかは、ちゃんと決めていますよ。
インタビュアー:それはどんなことですか?
石原氏:
本当にもう単純な売上とかです。1日の売上がいくら以上って。次のお店を出すにあたって、この店舗の売上が全てなので。いきなり高すぎる目標にすると、詰まった感じになってしまう。低いノルマを一つ一つクリアにしていくことが大事かなと。
インタビュアー:新規でカフェをやりたいと考えてる人から相談されることはありますか。
石原氏:
来ます来ます。そういう時は今日みたいな話をしますね。あと大変だよって言います(笑)。
インタビュアー:おすすめしないんですか?
石原氏:
ううん……。たまに「お金がまだないから」という話を聞きます。でもはっきり言って、お金はまだないんですけど、将来的にやりたいんですよっていうのは、本気じゃないんだなって思っちゃいますね。
もちろんその人にきついことは言わないですけど、でもやっぱり夢を語るならね、いくらでも、カフェやりたい、お店やりたいなんて誰でも結構思っていることだから。
具体的にじゃあ、お金いくらぐらいかかるんですか、とかそういうこと聞いてくれた方がリアル。ふわふわした話をしてくる人はきっとまだ真剣じゃないんだなって思います。意外に多いんですよ、自分もカフェいつかやりたいと思っているんですよっていう若い男の子。自分もそうだったのかもしれないですけど。でもお店を持つことは、大変だよって思いますね。
インタビュアー:実際問題どれくらいあればいいのでしょう?
石原氏:
ピンきりです。最低だと、人によっては300万くらいでやってるんじゃないですか。自分は300万じゃできなかったけど。
例えば、ご両親が持ってる物件とか箱がある人はもちろんがグッと下がるし、そこでうちみたいにデザイナーさん使わないで、DIYでテーブル作って、家具作ってっていうのだったら全然お金かからないし、家賃もかからない。だったら別に200万300万くらいでできるのかもしれないですよね。
インタビュアー:こちらのお店は結構かかっていそうです。
石原氏:
うちの店は6.5坪しかないんですけど、店が小さいからお金がかからないって言ったら、そうでもなくて。
例えば大工さんに来てもらうにしても、うち6.5坪だから100万かかるのが10坪だからってそんなに値段変わらないんですよね。6.5坪だからといって安くなるわけではない。だから意外にかかったというのはありますね。設計や施工についても、意識して工夫すればもっとコストを抑えられたと思いますね。
インタビュアー:コストの面ではシビアになった方がいいということですね。
石原氏:
自分は業界に知り合いがいなかったのもあり、高いか安いかも正直分かりませんでした。でも今、お店始めていろいろ知り合いから話を聞くと、ちょっと高かったのかなって気はしています。
そこは新しく始める人にとってはいくらでも下げれると思うので。でも下げすぎると素人っぽい店になるかもしれないので、その加減が難しいですね。それに自分で工事したっていいわけですし。
インタビュアー:築いておいた方がいい人脈は、ありますか。
石原氏:
今は飲食店なのでそれ以外は分からないですが、自分は「人脈なんていらない」と思って始めて、逆にそれで縛られずやれているので。まあ、たしかに意外にお金かかっちゃったっていうのはありましたけど。
ただ、この業界ではカフェで3年ぐらい修行するのが一般的ですが、それは本当に必要なのかって今でも思っています。今、自分は10何時間立ってますけど、きっと年齢を重ねたら体力的に難しいでしょうから、時間も限られます。
何より、お店を開けば同業者の方が向こうからたくさん来てくれます。いろんなコンタクト取ってくれて、一緒にやりませんかって話を頂くこともあります。この前、雑誌『Hanako』にも載せてもらったんですけど、あれも別に知り合いとかではなく代理店の人がインスタ見てオファーをもらいました。
もちろんスタートアップに人脈とか同業者の知り合いが多いに越したことはないですけど、それでじゃあ3年修行しよう。とかは言い方悪いかもしれないですが、必要なの?と思ってしまいますね。

インタビュアー: 実際にやってみた方がいいということですか。
石原氏:
そうですね。逆にお店開けてからでも同業者さんからアドバイスたくさんもらえるんで。自分やってるんですって別のコーヒーショップで話したら、すごく親身になってこっちも聞くし、向こうからもアドバイスがもらえます。
開けてからじゃ遅いってなるかもしれないですけど、今となっては知り合いはたくさんできていますしね……。
インタビュアー:その知り合いはお店で知り合う?
石原氏:
一番よく出会うのは、自分が契約してるコーヒー豆屋さんの試飲会や、コーヒーメーカーの展示会に行くと同業者が集まっているので普通に知り合うことができます。
あとこれから開業したい人に会うこともあります。実際この前お店開いた人もいますし、いろんな繋がりがあります。
インタビュアー:お金があってやる気があれば、とりあえずやってみた方がいいと思いますか?
石原氏:
そうでもないですね、別に人脈作りとか修行とかそういうことは好きじゃないんですが。でもアルバイトがいない時はトイレ休憩なし、食事休憩なしで1日12時間立っているのが現状です。
それは遊びたい人は無理だし、体力ない人も厳しい。本当にお金があって始めから人を使っていける人は別ですよ。なので、まずお店を出すんだという人には「大変だよ」と言います。
インタビュアー:では本気でお店をやりたい人に対してアドバイスがあれば教えてください。
石原氏:
自分はずっと会計とか経理とか簿記とかを勉強していました。例えばこの小さな店でも毎日の売上と原価があり、経費がある。そういう計算が簡単でもできるといいと思います。
銀行からお金を借りる時も収支表を出すんで、それも自分で作れないとそもそも人に説明もできないし、考え方が分からないと思うんです。だから単純に簿記くらい勉強しておいた方がいいと思いますね。数字に強くなった方がいい。
銀行の人は専門的なことを聞いてくるので、ちゃんとした数字が出せるっていうのはきっとお店を拡大していく上ですごく説得力がある。そこが弱いと、どんぶり勘定になっちゃうんじゃないかなって。儲かってるのか儲かってないのか分からない状況は一番危険です。
インタビュアー:たしかに。
石原氏:
はっきり言って飲食業は原価とかすごく重要です。今現金があればいい訳ではなくて、原価いくらで利益がいくらなどが問題なんです。キャッシュフロー、出て行くお金と入るお金はすごく意識しますし、それは前職の資金繰りなどでやっていたので、すごく参考になっていますね。
こんな小さなお店だからこそ、お金がなくなったらダメというか、すぐに傾いてしまいます。もちろんお金がいくらでもあれば、プロの税理士さんを雇って財務計算、収支計算をしてもらうこともできます。しかし小さなお店であればある程、自分が数字に強い方がいいのかなって気はしますね。

インタビュアー:では最後に、未来のチャレンジャーにメッセージをお願いします。
石原氏:
一歩踏み出せずに悩んでるみなさん。頑張って一歩動き出してみるといいと思います。実際動き出してみると、大変なことばかりで嫌になることもたくさんあります。けれども、それ以上に自分がやりたいことをやってるというのは楽しいです。充実感があります。
ぜひ、一歩踏み出してみましょう!
<取材が終わって>
サードウェーブのスペシャリティコーヒーを提供する「TRICHROMATIC COFFEE」は、本当に陽光がぽかぽかとそそぐ心地よい店だった。内装もシンプルでいて「かわいい」。そして、とても落ち着くのだ。そういうお店を作り出すために、石原氏は何年も前から準備していた。デザインや立地のみならず電球1つに至るまでこだわり抜いて、つくり上げいった。そうしてできた「TRICHROMATIC COFFEE」は、今、多くの人に愛される空間となっている。同時にカフェ経験がなくても脱サラ後にコーヒースタンドを立ち上げ、愛される店に育てることは大変ではあるが「できる」と私たちに教えてくれる存在でもあった。
<参考リンク>
The Turning Point参考リンク
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